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hkmaroのブログ

読書の感想など

『妹がスーパー戦隊に就職しました』大橋宗行 感想

妹がスーパー戦隊に就職しました (スマッシュ文庫)

妹がスーパー戦隊に就職しました (スマッシュ文庫)

 ヒーロー&ヒロインたちの葛藤と煩悩を浮き彫りにする、大人のための戦隊ヒーロー小説が、ここに誕生!
 主人公とその妹を含む5人の少年少女は、幼いころからの夢「スーパー戦隊」の隊員として就職した。入ってみると、主人公以外は全員美少女。その人生は幸福で満たされるはずだった……が、現実はそんなに甘くなかった!

著者は大学の人であり、しかもライトノベル研究者でもあるようだ。研究者が小説を書くと、著者本人がブログでも書いているように、あまり良いできばえにならないと言われることがある。これは思うに、単純に小説を書く技量が未熟である場合を除けば、図式的に小説を書いてしまうからであろう。今回の『妹がスーパー戦隊〜』も図式的に、つまりは一種の形式主義で書かれたラノベなのだろうか。読んでみた感想としては、意外にも逆の印象を抱いた。確かに文体はよくあるラノベのそれで、「僕」の一人称と三人称が章によって入れ替わったり、オタク文化の固有名詞が挿入されていたりするし、あるいは文体に限らず美少女が沢山登場してきてその多くが主人公に惚れているという設定などはある種のラノベのお約束をきっちり守っていると言えるのではあるが、しかし技術の面から言えば登場する必要性を感じられないキャラが複数名いたり、解消し切れていない伏線があるように見受けられたり(もっとも続刊がすでに予定されているのであればこれに関しては技術的欠点とは言えないかもしれない)、会話シーンにおいて誰がどのセリフを喋っているのか解釈しづらい箇所があったりと、必ずしもソリッドに形式が守られているわけではなく、印象としてはライトノベルの中ではむしろ「粗い」ほうだと思われる。特に、作家としてのデビュー作にもかかわらず470ページを超える分量を目にすると、一般的なライトノベル一冊の分量に収める構成力を著者が持たなかったのではないか、という推測も不可能ではない。

一方、その構成に多少の粗さがあるとしても、妹の描写に関しては昨日レビューした『ウルトラマン妹』に比べると遥かに「わかっている」感がある。なぜ『スーパー戦隊』のほうが「わかっている」と言えるのかを論証するのは容易い。なぜならこっちの妹のほうが近親相姦的だからである。近親相姦的だというのは、兄と妹が互いを想い合うことを自明とみなさないということだ。肉親であること、あるいはより単純に家族であることは、社会的な(あるいはこう言ったほうがよければ文化人類学的な)規範によって、夫婦以外は相互に性的欲望を抱くことを禁止する。そして卑俗な言い方をすれば「障害が多いほうが恋愛モノは面白い」わけであり、例えばBLでは同性であることが一応「障害」として機能する作品も多いように、妹モノでは近親相姦の禁止が「障害」として機能する。そして、妹モノのカタルシスは、兄妹の相互の愛情が家族愛なのか恋愛感情なのか、区別できなくなってしまった時に開放される(典型的には、兄が妹以外の女性よりも妹を優先したり、あるいは妹が兄以外の男性よりも兄を優先することによってそれが表現されることが多い)。もちろん本作にも妹モノ固有のカタルシスを開放させるシーンは存在しているし、それだけでなく近親相姦の不可能性も仄めかされていて、それなりに意識の高い立派な妹モノだと言えると思う。

つまり、このラノベは形式よりも内実が先行したライトノベルだと言うことができる。しかし、パトス的な内実が先行したラノベにありがちな結果は、それが単なるオナニーに終わってしまうことか、あるいはそのサブカテゴリーではあるのだが、ほとんど理解しがたい「俺TUEEE」に陥ってしまうことである。本作が一般的なラノベの文体を用いているところから、前者というよりはむしろ後者に近いのだが(既に述べたように主人公は複数の美(少)女たちから好意を寄せられている)、この主人公の極端な中心化は、普通その願望を隠蔽する要素に守られている。例えば『アクセル・ワールド』では主人公のハルユキがデブであることがそれである。例えば『はがない』では主人公の小鷹の外見が本人の意図に反して威圧的で友達が少ないことである。例えば『魔法化高校の劣等性』では特殊な事情で主人公の能力が成績に反映されないことである、等等。

今回の『妹がスーパー戦隊に就職しました』が優れているのは、ここに若ハゲという要素を導入したところにある。しかもその若ハゲは主人公本人のヒポコンデリー的な思い込みではなく、周囲の美(少)女たちにも認知されているらしいことが示される。主人公の外見的特長が、彼の中心化を隠蔽する「ネタ」として使われることは既に見たように珍しくないのだが、珍しいのは、そのハゲについて本人は周囲の美(少)女たちにかろうじてバレていないと思っているにもかかわらず、美(少)女たちは主人公の若ハゲに気付いている(らしい)という図式である。メタ視点で読んでいる読者は、単純に主人公がネガティブな思い込みをしている乙女ちっく漫画的展開に比べ、よりも強く隠蔽の「ネタ」の恩恵に与って安心して主人公への同一化とその中心化に身を委ねることができるだろう。

総じて、形式と内実のバランスに比較的優れている上に、妹モノとしての美学の存在を確認できるし、若ハゲという新たなセンスをも感じられる優良なラノベと言えるだろう。ライトノベルの読者共同体およびラノベ文化の発展に一定の寄与をもたらすと考えられる。革命力70。