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hkmaroのブログ

読書の感想など

『ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー 』三河ごーすと 感想

ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー (電撃文庫)

ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー (電撃文庫)

複数の層を持つ都市の設定や半液体金属については池上永一の『シャングリ・ラ』を彷彿とさせる。それと階級や資本が絡んでくるのも似ている。あとFF7の序盤もそういう話だったような気がする。美少女とパートナー同士になって、コロシアム的な場所で試合をして、勝てば大金が手に入って、……みたいな話の流れはアニメの『C』にも似ている。

SF系のラノベであり、単に主人公がモテまくってうれしい、みたいな豚ラノベよりは中身があるといってもよさそうだが、それにしても所詮ラノベであるから、個々のアイデアには高い新奇性を認めることはできないし、その必要もない。ラノベの面白さはSF的な面白さではなく、マンガ的でアニメ的でゲーム的な面白さだ。だがこのラノベは、どの方向性へも特化し切れなかった感が出ている。ラノベとして精一杯頑張ったけれど、SFの方向性も捨てがたい、けどガチSFだと読んでもらえないだろうから控えめにしつつ、ラブコメ的描写も盛り込んで……というバランスの中にあるのだが、結局中途半端に終わってしまったのではないか。

それもこれも長編SFの新人賞がなくなってしまったのがいけない。日本のSF出版界にはやる気が感じられない。ハヤカワなどは、SFっぽいラノベ作家を引っ張ってきて書かせて、ラノベオタに媚びるかのような態度をとっているにも関わらず、一方で自社の新人賞はやってない。日本人作家の新刊も毎回同じ顔ぶればかりで新鮮味がない。しかもその面々も半分くらいが元ラノベ作家だったりする。別にラノベ作家がSFを書いてはいけないとか言うつもりはない。というか、作家達の責任ではまったくない。日本のSF系の出版社がクソである。日本人のSF作家を育てようという気がないのではないか。よそのラノベ系の出版社が育てた作家に声かけて、自分では苦労をせず、その作家のファン層だけいただいて、香具師的に本を出す。いやまあ、私は別に出版業界の人間ではないし、その内情をしるよしもないので、実情はもっと別なのかもしれないが、一消費者として外野から本屋のSFの棚を見るたびに失望する。星海社と一緒じゃんそれ。ゴロツキか。同人ゴロなのか。出版者としての矜持はないのか。

話がそれつつあるが、つまり何が言いたいのかと言うと、この小説はもっとSF的な方面に特化して書けばもっといい本になったのではないかと思うのだ。特に『シャングリ・ラ』がSF的なアイデアのみを詰め込んだ、話としては完全に破綻したクソみたいな小説だったことを想起すれば、似たような設定を持ちながら無理のない分量のアイデアで、しかも話としても破綻していない作品を書ける作家が、SFの新人賞にもしそれ用に書いて送っていたとしたら、なかなかいい小説だったのではないかと思う。もちろん、作家自身は別にそんなことやろうとも思わないで、単にSFっぽくてちょっとシリアスなラブコメが書きたいだけなのかもしれない。それならそれでいい。だが、現代日本でSF作家を志望している人間が作家になるためには、実質的にラノベの新人賞に応募する以外にほとんど選択肢がない状況はおかしいのではないか。ラノベを書く能力とSFを書く能力は別なのではないか。ラノベを書く能力があると認められた人を引っ張ってきてSFを書かせて仮に売れたとしても、それでSF作家として売れたのだと言いきれるのか。読者たちはその作家のラノベ的な部分を楽しんで読んでいるのではないのか。つまり、そこで日本SFの命脈は実質的に絶たれているのではないのか。

別に私自身は日本人のSFにそんなに思い入れがあるわけでもないから、日本SFが滅びようとどうでもいいと言えばどうでもいいのだが、しかしラノベの表面を掬ってきて「新世代の日本人SF作家」だとかなんとか言っているのをみると、キチガイか、と思わずにはいられない。

ちなみにこの小説は格差格差と言っている割には資本家を断頭台へ送ろうという意志に欠ける。革命に対するやる気が感じられない。革命力4。